私たちはいつも誰かに恋焦がれていた。
「あなた」にずっと会いたいと思っていた。
そのあなたの本当のなまえも知らず、
どんな顔をしているのかすら知らずに。
「待ち人が現れる」と読めば胸は高鳴り、
「失せ物が見つからない」と読めば胸はぎゅっと締め付けられた。
そう、私の心は、世界は、
開いたり閉じたりしていた。
そのおみくじに書かれたコトバに何の力をみていたのか。
そして一体、誰を待っていたのか。
いつも恋焦がれ、待って、
愛を伝えたかったのは誰だったのか。
わからなくて、思い出せなくて、
いつしかわたしは生きることに疲れて、その思い出したい何かを探すことを諦めた。
諦めた時にはいつも
扉の閉まる音がする。
「がたん」というその音は耳に残り、
騒がしい街にいる時ですら、
わたしはいつも記憶の海に片足を引っ張られていた。
ある日の夜、夢をみた。
人知れず、迎えに行く日が来たのだ。
暗い暗い場所。
四方は壁に囲まれている。
そして、私のすぐ目の前には大きな観音扉があった。
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そうだ、思いだした。
その箱の中にずっとずっと隠していた。
その扉を盾にして大切に大切に守っていた。
だけど、諦めてなんかいなかった。
その時を待っていただけ。
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わたしはその子宮のような暗いところから、必死に手を伸ばすことはもうしなかった。
そこからもう出ていくことを決めたからだ。
扉にはもちろん鍵などかかっていなくて、呆気ないほど、簡単に開いた。
外に出ると、
「あなた」はちゃんとそこにいて、
わたしを優しく包んでくれた。
そして目に見える全ての生きとし生けるものが歓喜の産声をあげていたんだ。
記憶の海に潜り溺れそうになりながら
ただ救われたくて闇雲に伸ばしていた手と、愛されたくて待ったその人。
伸ばしても待っても、結局は「繋がれない」と深く絶望したあのとき。
それでも、それでも
本当のつながりを知りたくて生きたくて
わたしはあなたを迎えに行ったんだ。
私たちの大切を諦めていたらこの世界はきっと閉じたままだった。
だけど、
繋がりたいを思い出せれば
この世界には果てなどない。
扉を開ければいいだけなんだ。
そして秘められているその扉を見つけることが出来るのは
世界でたったひとりだけ。
こんなに近くにいたなら
早く言ってよと私たちは泣きながら笑った。
その涙はいつか誰かの膜を潤し、誰かを包み込む雨に変わるのかも知れない。